MAO的小屋 ~相原茂の隠れ部屋~
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MAO'S Profile
雑誌、新聞、書籍などに寄稿したエッセイ集。
東京のウイグル人

私の知り合いには中国人が多い。中国人というと「漢民族」を思い浮かべるだろうが,実は中国は多民族国家,いろいろな民族がいる。
 我々は自分が何民族なのか,ほとんど意識したことがない。日本人,それで十分だからだ。中国では身分証明書に「漢族」とか「蒙古族」「白族」などと明記されている。われわれならさしずめ「大和族」か。
人口の大多数を占めるのが漢族だから,日本で出会う大部分の中国人は漢族だが,なかには少数民族もいる。

日本で出会う確率が最も高いのは朝鮮族だろう。親戚が韓国にいて,そのまた親戚が日本にいるから来たという人も多い。彼らは韓国語と中国語が話せ,だいたい日本語にも巧みだ。

 朝鮮族以外はめったに知り合いになることも少ないのだが,最近仕事で知り合った人にウイグル族の女性がいる。
 私が毎年やっている恒例の「春節晩会」でウイグルの衣装を身にまといウイグルの踊りを披露してくれたので,あるいはご記憶の方もあるかもしれない。

 一度彼女に夕ご飯をごちそうになったことがある。東京にウイグル料理のお店ができたということで,うれしそうに,また誇らしげに案内してくれたのだ。
西新宿にあるその店は中の装飾もウイグル風で,箸や皿といった什器から壁の装飾までわざわざ新疆から運んだというだけあってウイグルの雰囲気を十分に伝えるものであった。店員もウイグル族の人で,話す言葉もウイグル語だ。

 ご存じのようにウイグル族はイスラム教の信徒だから,ブタを食べてはいけない。だから一般のレストランには入らない。ブタ肉料理でなくても,どこにブタの何かが混入してないとは限らないからだ。またスパーでちょっとした調味料を買うときでも念入りに成分を調べる。あやしい成分が入っていたり,意味不明のものがあれば即座に電話して確認するという。そんなわけだから前述のウイグル料理専門店は安心して食事のできる,唯一といってよい東京でのレストランということらしい。

ウイグル人は,稼いだお金をすべて食べ物につぎ込んでしまうと聞いたことがある。といって自分で好きなモノを大食するというのではない。毎週1回ぐらい,知人を家に招き,料理を振る舞うのである。つまり家でパーティをする。そこで振る舞う料理が腕の見せ所。たしかに10人ぐらいを招けばこれはちょっとしたパーティだ。
その時のメニューというのを見せて貰った。ウイグル文字で書いてあって,まったく分からないのだが,説明によるとサラダ,前菜からはじまり,メインデッシュ2,3品,最後のデザートまでレストランのコースのようであった。これではお金が吹っ飛ぶだろう。しかし,このようにしてでも人間同士の絆が深まり,いろいろな情報も集まるので,お金をかけてもそれに値すると考えているようだ。また,お返しに次の週は別の人が招いてくれる。東京にいるウイグル族はこういう習慣で堅く結ばれている。どのぐらい自分たちの同胞がいるか,どんな人がいるか,たいてい知っているという。

ウイグル料理といえば何と言っても羊だ。羊はなんと1匹まるごと買うらしい。オーストリア産という。日本でもそんな店があるのだ。もちろん生きているのではない。丸ごと買ってそれを小分けにして冷蔵保存して毎日のように食べる。なにしろ羊肉の料理をつくらないと「料理を作った」とは言えないぐらい,食卓には欠かせないものらしい。

こんなウイグル族であれば漢民族との結婚はむずかしい。中国料理からブタをのぞくのは至難の業だからだ。それに対して日本人との結婚はあり得るそうだ。日本人はいろいろな肉を食べ魚介類も豊富だから,ブタを外してもそう抵抗がないらしい。

現在の新疆ウイグル族自治区には漢族も多く住んでいる。彼らはブタ肉を食する。だから街で売ってはいる。しかしそれは黒い布で覆われ,名前も“猪肉”ではなく“大肉”と書いてある。“猪”は書くも,発音するもタブーである。“朱”という姓の人は“猪”と同音ゆえ,確か姓を変えてしまうと聞いたことがある。“属猪”つまり「ブタ年生まれ」の人は,その一つ手前の“属狗”(戌年生まれ)に含めてしまうと,これも聞きかじりだ。


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