「3」をどう表すか ——— 手による数の示し方
新学期,中国語への入門。 “你好”や“谢谢”とともに,中国語の数の言い方を学ぶ。これはやさしい,“一,二,三,四,…”というものだ。 その時,手による数の示し方もついでに教わることが多いようだ。教科書にはよく図がでている。とくに6から10は日本と違う。 私もいまから30年ぐらい前,大修館書店から『中国語』という月刊誌が発行されていた頃に,「身振り言語」という特集企画をやらせていただいた記憶がある。そこでは当然のように「手による数の表し方」を載せた。それは後年『中国語学習ハンドブック』(大修館書店,相原茂編著,1996)にも引き継がれた。 今回,中国語の入門テキストを編むことになり,やはり「手による数の表し方」を載せよう と思った。イラストレーターとしては中国人の蒋海倫さんをお願いした。彼女は漫画が本職であるが,今回は特別に教科書の挿絵を担当していただけることになった。 ところが,彼女の描いてきたイラストのなかで,3が今までのと違っていた。これまでのはたいてい人差し指,中指,くすり指を立てるものだが,彼女のそれは中指,くすり指,そして小指 を立てるものだ。図をみれば違いは一目瞭然だがここには図をのせられない。仕方が無い。これま でのをAタイプ,新しいのをBタイプと呼ぼう。 彼女は,自分はBタイプで表す,これが正統で,テキストなどで教えるならこちらを教えるべきだと主張する。京劇の手振りでもBタイプだし,教養ある人士はこちらをしているはずだと言って譲らない。 中国人は我の主張が強い,絶対こうだと,自分の個人的な経験を普遍化して言うこともしばしばだ。その日は,まあお互い少し調べてみましょうということで,話を打ち切った。 数日して,彼女からメールが届いた。ウエブで調べたらしく,著名な中国の外交官が講演で3の手振りをしているところを貼付けている。確かに彼女にいうBタイプのほうだ。 私も少し調べてみた。書斎からはそれらしい本は2冊しか見つからなかったが,一つは 《体态语》(周国光,中央民族大学出版社,1997) によると,ここでは数字の3はBタイプしか紹介していない(p247)。 もう1冊は《跨文化非语言交际》(毕继万, 外语教学与研究出版社,1999)という書で,こちらにはAB両タイプ紹介してあった(p34)。しかし,Bタイプのほうを先に紹介していた。 これはちょっと意外な結果だった。いままで,長い間Aタイプの図を使ってきたが,どこからも異論はなかった。 そもそも1は人差し指を立て,2は隣の中指も立てる,当然この流れでゆけば3はくすり指を立てるのが自然だ。日本人もこうしている。 そこをわざわざBタイプの形にするというのはかなり意識的な行為と言わなければならない。こちらのほうが標準であるなら,教科書や参考書を使っている中国人教師から質問があってもよいはずだが,これまでそんなこともない。 数日後,また書棚の奥から本がでてきた。《汉语与文化交际》(杨德峰编著,北京大学出版社1999)という本で,これによると3はなんとAタイプのみだった(p210)。何だかよくわからなくなってきた。(あと確か耿二联という方の専著があったはずだが,見当たらない) 身近な中国人にも聞いてみた。すると,自分は Bタイプが優勢だと言う人が多い。だが,もちろんAタイプも見たことがあるという。男性の意見ではBタイプは小指を立てるから,なんとなく女性っぽくて抵抗がある。とくに1,2と指を立ててその流れでやるときはAタイプだという。結論から言えば,どちらもあり得る。テキストだからと,どちらかに決めつけることもなさそうだ。 なお10も,いくつか諸説がある。両手を使うものは左右の人差し指を交差させて「十」の字をつくるものや,左右ともに5本の指を開くものもある。 片手のみで示すものでは,5本の指を開き表裏とひっくり返すものや,人差し指と中指を交差するようにかさね合わせるものがあるが,後者はあまり見たことが無いという意見もあった。もっとも異論の少ないのは「こぶし」で,これは“石”shíなので“十”と音通であることを利用する。 中国は広く,いろいろな習慣がある。地域によっても違いがあるようだ。些細なことだが,少し気にしていただいて,ご教示いただければと思う。
|