ハルピンレポート
友人の岸弘子さんが,この秋から中国は東北のハルピンに仕事ででかけた。ときどきハルピンレポートが送られてくる。自分一人で楽しんでいるのもなんだから,ここに公開することにした。不定期になるが,どうぞお楽しみに(相原)。
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ハルピンに暮らす 岸弘子(在ハルピン)
「衣食住」というが,衣はなんとでもなる。身体を覆うものがあればいい。「食」もなんとかなる。いまどき飢え死にはすまい。しかし,「住」は違う。雨露をしのげればよいというわけにはゆかない。 * ハルピンにも日本の不動産にあたる「中介」があり、部屋を探すときにはまず、「中介」をたずねることになります。街のあちこちに「中介」とか「房」と書かれた看板が立っているので、すぐに見つかります。が、日本の不動産屋さんのような立派なオフィスではないので、びっくりしないでください。
入り口に果物の皮やら日常のごみやらが放置されているところを、ズボンのすそをひきずらないよう注意しながら重いドアをノックします。「どうぞ」の声にドアを開けると、目の前にベッド、服が投げ散らかされたソファー、大きな音でつけっぱなしのテレビ……。それよりも、そこにはパジャマ姿の中年の夫婦の姿がありました。
私たちが部屋を探していると言うと、ノートをぺらぺらめくり、携帯で誰かに電話を掛け、「ちょうど一人で住むにはちょうどいい部屋があるから今すぐ案内する」と言います。何がなにやらわからず、後についていくと、どこからともなく「仕事を抜けてきた」と大家さんらしい人が現れて、アパートへ案内してくれました。
「ここ,ここ」と、ドアを開けると、ここも普通に人の住んでいるらしき部屋。部屋の中には所狭しと洗濯物が干されていて、テーブルには食べかけの食事。トイレは何週間も掃除をしていない様子でした。「今、私たち夫婦がこっちの部屋を使っているから、こちらの空いた部屋を貸したい。1ヶ月、1000元でどう?」の言 葉に、言葉を失ってしまったことは言うまでもありません。「ちょっと考えてみる」と返事をすると、「じゃあ、案内料の10元を頂戴」。こちらでは、物件を見るたびに、大家さんに10元を支払う仕組みになっているようです。
結局、自分では無理なようなので、知り合いに頼んで探してもらい、やっと「清潔で・安全で・30平米位で、1000元以内」というぴったりの物件が見つかりました。喜び勇んで見に行くと、内装をやり直したばかりのとてもきれいな部屋でした。「教師楼」と言って、住人がみんな先生ばかりなので、環境も抜群です。ところが、大家さんは私が日本人だとわかると「家賃は1ヶ月1100元で、1年分をまとめて支払って欲しい」と言い出したのです。とたんに、同行してくれていた知り合いの友人と大家さんの間で、ものすごい口げんかが始まり、ついには「こんな信用の置けない大家から部屋を借りるな!」「それなら出て行け!」……せっかく湯船が付いていた素敵な部屋を諦めざるを得なくなりました。
その後も、契約までしたのに、引越し前日に「やっぱり貸すのをやめた」と言われたり、1人暮らしにぴったりの2部屋だからと見に行ったら、どうみても5人家族が暮らせそうなだだっ広い部屋だったりと、いい加減、部屋探しに疲れ果てているころ、「7階エレベーターなしだけど34平米で1ヶ月750元」という部屋があると紹介されました。もう、そこでいいや……と思いながら見に行ってみると、「ベット、ソファー、テレビ、コンポ、冷蔵庫、食卓付き(もちろん新品ではなくて、大家さんが使っているもの)、ケーブルテレビ代と冬の暖房費込みで750元」とのこと。今週の土曜日午前中に引っ越すから、午後にも入れると言 います。「じゃあ、お願いします」というと、「手付金400元頂戴。」またお金かあ……。しぶしぶ400元を出すと、私の目の前で「中介」が自分のポケットに200元をしまい、紹介者らしきもう一人の「中介」に100元を渡し、大家さんに100元を渡し、「じゃあ、土曜日の午後に」。
さて、私はこの部屋に入ることができたと思いますか?
土曜日の午後、スーツケース2つの荷物をもって部屋を訪ねると、「いやあ、ごめんごめん。引っ越す先の部屋の内装が完全に終わっていなくて、まだ引っ越せないんだ。」私の引越しの手伝いに来ていた知人とその親族友人は、その言葉を聞くやいなや口々に大家さんを非難し始めました。「彼女は、もう荷物をまとめて 来ているんだ!」と言えば、大家さんも負けじと「じゃあ、その荷物だけ、ここに置いてあげる。」「じゃあ、彼女はどこで生活するんだ?ここで一緒に生活するのか?」「それはできない。」「予定が変わったなら、連絡すべきだ。」「私は悪くない。仕事が遅い内装屋が悪いんだ。」延々と続く水掛け論に嫌気が差し、私は今住んでいる友人宅に戻るから、勝手にして……とその場を後にしました。
結局、知人の親族友人たちが勝利したらしく、「彼らは急遽引越し屋を手配して、これから引っ越すらしいから、夕方には入れるよ。」と電話が入りました。仕事を終えて部屋に行ってみると、きれいに掃除がされていました。何でも、お掃除屋さんのおばさんを頼んで4時間かけて掃除をしたとの事(1時間10元ですが 、日本のプロの清掃業者と違って、ちょっと年配のおばさんが手ぶらでやってきて、うちにあるほうきと雑巾を使って普通に掃除をするだけです)。半日前までこのうちの住人が座っていたであろうソファーにどさっと腰を下ろし、半日前までこのうちの住人が見ていたテレビのスイッチを入れ、何とかこのハルピンの街に自分の居場所を確保できた安心感に浸りました。
あれから1週間、実際に住み始めて、シャワーの引っ掛ける部分が取れていたり、水はけが悪く詰まってしまったり、窓の締りが悪かったり、コンポが壊れていて使い物にならなかったり、一筋縄でいかないのが、やはり中国でありました。
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