東北風ばか騒ぎ
岸 弘子 ちょっと面白い場所に行ったのでお知らせします。
『殺猪菜』は、現在でも農村で祝い事のときに作られる料理で、豚を1匹殺して、それでいろいろな料理を作って振舞う東北独特の料理とのこと。この『殺豚菜』で有名な場所に連れて行ってくれるというので、好奇心8割、不安2割で車に乗りました。
店は1階が大きなホールになっていて、円卓が30位、中央はステージになっています。2階もホールが見下ろせるところに客席と、その奥に個室が10程。3階から6階はすべて個室。驚くことに毎晩満席状態で、事前に予約していないと入れない位の繁盛振り。
一歩店に足を踏み入れると、大勢の賑やかな話し声(というより叫び声)に混ざって、大音量の音楽、マイクで叫ぶ司会者の声が響き渡っています。予約した席は舞台が見下ろせる2階席。小皿と碗、コップと箸が1人ずつビニールに包装されて並べられていました。消毒済みの食器を頼むと、1セット1元が必要だそうで す。
動物愛護精神にのっとり、あまり豚であった痕跡のない料理を注文していると、突然舞台になまめかしい衣装をまとった美女(?)が現れました。客席は歓声の嵐。彼女は、踊りながら1枚ずつ服を脱ぎ、挙句には下着状態。肌もあらわな格好で客席を回り、男性客のひざの上に座ったり、キスをせがんだり、抱きついたり とやりたい放題の彼女に、客席はますますヒートアップしていきます。舞台に戻った彼女は、ついに胸もあらわに・・・・「子供もいるのに、いいの?」と驚く私に「あれ、男だから」と友人が説明してくれました。日本にもあるニューハーフのショーと言ったところでしょうか。
次に現れたのは、全く普通の女性。普通に流行歌を歌い始めました。なーんだ、ちょっとしらけた感じだな、と思っていたら、客席から3本のビールが運ばれてきました。なんでも、彼女に一気で飲み干せと言う意味らしいです。彼女は突然いすの上に立ち上がり(もちろん歌は歌いながら)、おもむろにビール瓶に口をつ けると一気に飲み干してしまったのです。2本目は?と思っていると、客席から若い男性が連れ出され、彼女と飲み比べをすることになったそうです。突然連れ出されて客も、客席の声に押されて彼女と一緒にぐびぐびとあっという間に1本ビールを飲み干してしまいました。
彼女が3本目を飲み終わると入れ替わりに、ちょっととぼけた男性と、東北風の気の強そうな女性が現れて、漫談を始めました。とんでもない早口で、何を言っているのか全く理解できないものの、とぼけた身振りと、テンポの良さは、十分楽しめます(もともと、関西人はお笑いが好きですから)。実際、彼らの漫談は、中国人も聞き取れないくらい早口らしいです。
お笑いの後は、再びお色気攻め・・・と言うことで、ロシア人の美女が数名現れて、歌とダンスで客席を酔わせます。
舞台の上で何をやっていようと客席は飲めや騒げの大騒ぎ。卓上には、皿の数を競うようにさまざまな料理が並べられ、重ねられ……。私たちの目の前も、見る見るうちに東北料理の山ができました。東北料理の特色は、とにかく味付けが濃く(塩辛く)、肉中心です。特に私が気に入っているのは『酸菜』という、すっぱい白菜を使った炒め物やスープで、これは、中国人でも好き嫌いが分かれる癖のある味です。上海から来た友人は、一口食べて、食べられないとギブアップ。私がおいしそうに食べるのを不思議な顔で見ています。実は、私の母は白菜のぬか漬け作るのが大好きなくせに、あまり手を入れないものだから、年が明けて節分のころになると、我が家では毎年すっぱい白菜漬けが食卓に並べられていました。子供のころは大嫌いで、食べられなかったのに、母が亡くなってから、不思議とあの味が恋しくて、漬け方を教わらなかったことを後悔したものです。
余談になりますが、学校の近くに『砂鍋』の店があり、酸菜と春雨の鍋が食べられます。『砂鍋』は日本の土鍋のことで、注文すると1名ずつ、小さな土鍋に注文した材料にスープを加え、ぐつぐつ煮て出してくれます。一番安い豆腐と肉団子の砂鍋が3元。これに焼餅1元でお昼ご飯が済みます。味も、ハルピンでは珍しくあっさりとした日本の中華スープに近い味なので、日本人留学生にとても人気があります。中国のマクドナルドのコーヒーが1杯7元ですから、かなりお得な昼食です。
さて、話を元に戻して、この賑やかな東北独特の娯楽場は、夜が更けるとともに賑やかさが増していきます。上海から来た友人は「もう十分」と、枯らした声で叫び、私たちは店を後にすることになりました。店を出ても、まだ賑やかな音楽と人々の声が耳に残り、しばらく誰もがいつもより心持大きな声で話をしていたようで、更け行く夜道に、私たちの声がひときわ高く響き渡っていました。
ハルピンは発展の過渡期で、このような古い店もあれば、とてもおしゃれなカフェもあります。私は、もちろん静かなカフェで音楽を聴きながらゆっくりするのも好きですが、時々こんな賑わいの中で馬鹿騒ぎをするのも大好きです。
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