中国のひよわな学生たち
岸弘子 大連で、大学主催の「人材育成会議」に参加しました。大学がソフトウエア専攻だけに、IT関連企業から多くの関係者が参加しての盛大な会議でした。テーマは「国際化・工業化・高質量・高速度」の理念に基づく、質の高い人材育成……つまりが、大学で高い技術を知識として学んだ学生を、企業で使える人材に育成する ためにはどうすればいいかという会議です。(「人口」をどうやって「人材」に変えるか、という表現を使っていました)日本では、1名の採用であれば、10〜20名も面接すれば十分という感じがしますが、こちらでは、その10倍の人数の面接をしないと、使える人材が見つからないと言いますから、まさに人材探しは、砂金探しのようなものです。
私が、こちらの大学生を教えていてつくづく感じたことは、最近の大学生は、大学を卒業するまで社会との接点が少なすぎる、ということです。日本では、小学校の夏休みの宿題「おうちのお手伝い」に始まり、中学校での「トライヤルウイーク(校区内の職場で実際の仕事を経験する活動)」、高校でほとんどの学生がバ イトデビューをし、大学生では、学業よりバイト時間のほうが多い学生もあるほど。
ところが、こちらでは、バイトはおろか、うちの手伝いも経験したことがない大学生がいるから驚きです。一昔前、中国の学生に「料理ができる人?」と質問すると、男女を問わずほとんどが手を上げていたのに、今では、全滅です。こちらの先生曰く「今の学生は、手伝いより勉強ですから・・・」。
それでも、「構内で実習を積んでいるから、実践にも自信がある」と、みんな自信満々です。しかしながら、実社会での仕事経験と、学校内の模擬授業・実習は大きく違うと思います。実社会では、年代の違う(自分より人生経験のある)大人の人と接することにより、あいさつや礼儀、仕事の段取りというものについて学びます。また、自分が失敗すると、会社に損害を与え、職場の仲間に迷惑をかけるのだということも知ります。学校内の失敗は、あくまで自分の内部で処理できるもので、どうしても「バーチャル」の粋を出ることがありません。
中国の大学生の持っている「知識」は、日本の大学生を上回るかもしれません。しかしながら、社会の荒波を生き抜いていく「智恵」は・・・となると、首を傾げるしかありません。一流の国立大学の学生達は、「自分は優秀だ」と自信を持っています。ところが、幼いころから家庭や学校という守られた環境の中で、挫折を知らずに育ったエリートの彼らは、実社会に出て初めてぶち当たる壁に、いとも簡単に砕け散ってしまうというのです。
大学も、企業側も、定着しない新卒たちに頭を悩ませているらしく、両者が協力して、人材育成を行っていこうという動きが数年前から始まっているようです。特に、外国語教育では、検定に合格するだけでなく、実際の現場で使える実践教育を重視し始めています。また、学生のインターンシップなども、企業側の協力で実現しつつあるようです。
これは、お国事情もあるかと思いますが、大学生になっても、海外経験、もしくは国内の国際化の進んでいる都市(北京・上海など)に出かける経験がすくないことも問題です。
私の専門は、日本語教育とビジネスマナー教育なのですが、「トイレに行くときに持っていくものは?」と質問すると、みんな揃って「紙!」と答えます。こちらのトイレは、トイレットペーパーが設置されていないのが一般的ですから、それには納得できます。が、「ハンカチ」と答える学生は一人もいません。みんな、手を洗ったあとは、廊下でブルブルと手を振りながらの自然乾燥です。
実は、ある日本企業から、「中国から来た人材に、ハンカチを持たせるように指導して欲しい」とクレームが来たことがあります。会社のトイレから、事務所までの廊下が水でびしょびしょになり、日本人社員から苦情が出たそうです。
また、9時から仕事が始まるのに、9時に出社して、平気で自分の席で朝食を食べ始めるとか、ゴミの捨て方がなっていないとか・・・。
中国が国際社会の仲間入りをするためには、立派な建物や道路を作るといったハード面だけでなく、人の意識そのものを変えていく必要があると思います。そのためには、若い人にいろいろな経験をさせて、井の中の蛙に大海を見せなければなりません。
ただ、私が学生達に、このお話をするときに、「国際化は、先進国に同化するのが目的ではなく、中国人としてのアイデンティティーを持ちながら、良い面を吸収し、自らの意識を高めることだ」と必ず付け加えています。中国のいいところも残して欲しいですから。
ところで、この会議、9時から18時まで、中国語オンリーで行われました。時々「聞き取れる?」と隣でいたずらっぽく笑う友人。マイノリティーとしてのストレスを大いに感じた1日でありました。(2008年11月3日)
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