MAO的小屋 ~相原茂の隠れ部屋~
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MAO'S Profile
雑誌、新聞、書籍などに寄稿したエッセイ集。
快適な日々—日本で

岸弘子
ハルピンから一時帰国して1週間。日本は生活するのに労力がいらない国だとつくづく感じています。とにかく便利で、サービスが行き届いているということを実感しました。
知人が大きくなりすぎて飼いきれなくなったゴールデンレトリバーを徳島に住んでいる私の妹に譲りたいという話になりました。東京から車を運転して運ぶと往復で24時間。ガソリン代と高速代を入れると6万円にもなります。運転も一人では大変なので二人がかり。食事代や宿泊費を入れると10万円にはなるでしょう。そこで、インターネットを調べること半時間。ある宅配業者が5万円で玄関から玄関へ届けてくれるといいます。手続きは電話一本で完了し、たった1日で妹のうちにゴールデンレトリバーが届けられることになりました。

私はとても引っ越し好きで、今までに6〜7回の引っ越しを経験しています。ネットで物件を探し、メールで連絡。現地はもちろん見に行きますが、引越し業者の手配をはじめ、水道や電気などの変更もすべてネットで済ませてしまいます。買い物も然り。航空チケットの手配も然り。相手の人間の顔を見ることもなく、指先一本ですべてが片づいてしまう便利な時代になったものだと思います。

自宅での仕事に行き詰れば、5分もかからない場所にあるカフェで最高のサービスを受けながら1時間も2時間もボーッと過ごし、帰り道のスーパーで家族の夕食の買い物をする・・・。家族とうちでおしゃべりする以外は、ほとんど人と話すことなく1日を終えることも可能です。

ハルピンでは、生活するために、大変な労力が必要です。貯金を引き出すにも、長い列に並び、割り込みをしようとする人たちをかき分けながら自分の順番を守り抜かなければなりません。「私が先でしょ!」「早くして!」と必ず喧嘩が起ります。皆がルールを守ってきちんと並んだ方が効率がいいとは思うのですが、そうはいきません。日本のATMの前には静かに自分の順番を待つ人の列。自分の番になると、無言で整然と処理を済まし、銀行を出る・・・。死ぬほど込んでいる満員電車の中も、気持ちが悪いほど沈黙が保たれます。(私は関西出身ですが、関西の電車の中は結構にぎやかです。東京に来てすぐのころ、娘と電車の中で関西弁でおしゃべりをして変な注目を浴びたことがあります。本当に 東京の電車の中は静かです。)
買い物をするにも値段の交渉をし(価格表示があっても、交渉次第で7割くらいは安くなります)、どこかに行くにも道を尋ね(道路標識も大雑把です)、とにかく人を相手に言葉を駆使し、自分の目的を達成するために一生懸命にならなければなりません。たくさんの仕事を抱えて忙しい時は、そういう雑用にかかる手間を面倒だと感じることもありますが、この1週間、あまり人と接することのない生活を送っていると、「生きている!」という手ごたえが感じられません。
中国もそのうち「サービス」が必要な時代が来ると言われますが、日本のようにあまり便利になりすぎて、人間味が感じられなくなるのも寂しい気がします。

(2009年2月1日)


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