MAO的小屋 ~相原茂の隠れ部屋~
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MAO'S Profile
雑誌、新聞、書籍などに寄稿したエッセイ集。
お茶を楽しむ

岸 弘子
映画『レッドクリフ』が関係者の予想を上回る観客動員数だと聞きました。書店に行くと、『三国志』関連の本がいたるところに平積みされているのを目にします。魏蜀呉の三国の英雄たちが繰り広げる歴史物語は、時代を超えて人々を引きつけてやまないようです。
今まで特に中国に興味がなかった人でも、『レッドクリフ』を見てから、中国についてちょっと興味を持つようになったという人も少なくありません。私が中国狂だと知っている知人たちから、三峡下りや赤壁観光について聞かれたり、中国語を教えてほしいと頼まれたりするようになりました。しかし、「中国にも茶道があるの?」という質問には、ちょっと頭を抱えてしまいます。
私が滞在したハルピンでは、あまりお茶を飲む習慣がありませんでした。コンビニで買う「緑茶」は日本の「緑茶」と違って甘いので、初めて口にする人を驚かせます(あまりの気持ち悪さに吐き出してしまう人もいるくらいです)。町中の飲食店に入っても、日本のようにお水とお手拭きが出てくることはありません。飲み物は基本的に別注文で、アルコールではビール、ソフトドリンクではコーラを注文する人が多いようです。「有没有茶水?」と聞くと、ポットに白湯(さゆ)を入れて持ってきてくれる店が30%くらいで、あとは「没有!」という一言にふされてしまいます。ごくごくたまに、ジャスミン茶を出してくれるところがありますが、本当にレアなことです。職場のスタッフたちは、白湯(さ ゆ)を飲む人がほとんどで、日本からお土産に持って行ったインスタントコーヒーも、結局は日本人スタッフのお土産になってしまいました。
人が集うとお茶よりもお酒!!というのがハルピン流らしいです。
先日訪れた台湾では、スターバックスもさることながら、「茶館」が至る所にあって、「下午茶(午後のティータイムのようなもの)」を飲ませてくれます。お茶とお菓子がセットで500元(1500円)前後です。人数に関係なく、1ポット分の茶葉が提供され、お湯はいくらでも継ぎ足してくれるので、人数が多いほど得かもしれません。台湾の若者は、4、5人で茶館に行き、トランプをしたり、おしゃべりをしたりして3、4時間を過ごすのだそうです。カラオケやゲームセンターに行くより茶館に行く方が好きだという学生たちも少なくありません。
「お茶を楽しむのは文化人の証拠だ」というのが私の主人の言い分なのですが、確かに英国のHighTeaにしても、日本の茶道にしても、一つのセレモニーとして、その国の文化を語る上では欠かせないものとなっているかもしれません。曹操がお茶を楽しんで戦機を逃したというのが『レッドクリフⅡ』の結末となっていますが、武に秀でた英雄の茶の湯を楽しむ姿は、その人の文化的な一面を見るようで、ただの戦争好き、暴力的な人ではないのだという人間的魅力を感じさせます。

さて、台湾のお茶の話に戻りますが、「工夫茶」を注文すると、綺麗な台湾女性が茶器セットを持って現れ、目の前で優雅にお茶を入れてくれます。白くて美しい女性の手が茶筅を持ち、湯を注ぎ・・・。お茶が注がれるまでのゆっくりと優雅な動作は、私を人間(じんかん)の煩わしさから解放し、高く清らかな境地に導いてくれるような気がします。ガサツな日常会話ではなく、少し文人を気どった会話をしてみたくなる一時かもしれません。築100年以上にもなる茶館は、少し中が薄暗く、昔の日本建築を思わせます。熱帯の蒸し暑さに適応した造りになっているせいか、風通しがよく、30度近い気温にもかかわらず、心地いい風が、部屋に飾られた野の花を揺らし、窓から中庭に吹き抜けていきます。旅 の記念に買い求めた茶葉を帰国後に入れてみましたが、生活の香りがする狭い台所、40年のしわが刻まれた手で入れるお茶であの日の感動を味わうことはできませんでした。

と、長々とお茶について語ってしまいましたが、実のところ私自身は知る人ぞ知るコーヒー通で、自宅にはサイフォン、エスプレッソマシーンを揃え、スターバックスに日参する茶文化からは程遠い日々を過ごしています。ただ、年を重ねるごとに、静かにゆっくりとした時間を楽しみたいという欲求が強くなり、コーヒーからお茶に転向してみようかと思っている今日この頃です。

2009年5月16日


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