においの話
岸弘子 汗ばむ陽気が続くようになると、制汗スプレー、消臭剤、汗取りパッドなど、汗のにおい対策グッズが店頭に並ぶようになります。職場でも、男女を問わず、こまめにウエットティッシュで体を拭く姿が見受けられます。「ねえ、私、汗臭くない?」と同僚同士で臭いをかぎ合っている姿を見ると、そこまでしなくても・・・と可笑しくもなりますが。夏場になると1日に2度3度とシャワーを使うという人も少なくありません。聞くところによると、日本人ほど臭いに敏感な民族はいないそうで、必要以上に自分の体臭や口臭を気にする人が多いといいます。
確かに、ハルピンに到着して飛行機を降りた途端、独特の香りがして「ああ、ハルピンに戻ったな・・・」と感じていました。基本的に、臭いに対する感覚が違うのか、日本人ならちょっと勘弁してほしい!と思う臭いも許容範囲に入るようです。まず、家庭の下水。まだ下水の設備が完全でないため、どんなに豪華できれいなマンションを訪れても、ドアを開けたとたんにプーンとトイレの臭いがして驚くことがあります。うちの学校は、同じフロアにある会社と共用のトイレを使っていましたが、かなり臭いが気になり、トイレの前の部屋をレンタルしている会社の人たちはさぞかし臭うだろうなあ・・・と気の毒に思うくらいでした。(日本のように、消臭剤や芳香剤が置かれているトイレは多くありませ ん)。
日本のビジネスの常識として、昼ごはんに臭いのきついものを食べることはタブーで、もし食べたとしても歯磨きをしたり、口臭予防のガムを噛むなどしてブレスケアをする人が多いと思います。しかし、ハルピンでは一向にお構いなし。お昼休みの時間が終わって、7階の事務所まで戻るエレベーターの中は、強烈なニンニク臭が充満していて、慣れない人には辛い空間になってしまいます。
臭いだけでなく、日本には、自分が周りの人に迷惑をかけることを極端に嫌う傾向があると思います。食事中の食器の音、くちゃくちゃという咀嚼音、ましてやげっぷなどはもってのほかです。ドアの開け閉めは静かに!仕事中に誤って書類をどさっと落としてしまったときなど「すみません!」と一言・・・が常識でしょう。東京のように世界でも1位2位を争う人口密度の多い都会で、人々が整然と生活できているのは、このように幼い時から身についた他人への気配りのおかげだと指摘する専門家がいました。もし、アメリカ人に東京のような人口密度の高い街があったら、絶えず喧嘩や拳銃の撃ち合いが起きるだろうと。
臭いの話に戻りますが、最近では、高齢の男性の「加齢臭」が話題に上ることが多く、高齢の男性用の臭い対策グッズの売れ行きも好調だそうです。昔のように働く男の象徴、「汗のにおい」のする男性は歓迎されないようです。私は、どうも化学的な香りが苦手で、香水のきつい人と長い時間一緒にいると気分が悪くなってしまいます。確かに臭いよりはいい香りがするに越したことはないのですが、どこへ行っても人工的な香りでは、臭覚が麻痺してしまいそうです。青草のにおい、雨降りの日の土のにおい、赤ん坊の乳臭いにおい、そのものの持つ自然なにおいを嗅いだとき、なぜかホッとします。(昔人間なんでしょうね)。
生まれたばかりの赤ん坊は、自分の母親のお乳のにおいをかぎ分ける力があるといいます。昔は、人間もにおいで仲間を識別していた時代があるといいますから、お父さんの加齢臭も家族を守る大切な臭いだと考えると、娘に箸で靴下をつままれているお父さんたちも少しは救われるのではないでしょうか。 (2009年6月20日)
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